2006年9月8日金曜日

『人恋しい雨の夜に』

日本ペンクラブ・浅田次郎選



短編集。テーマは「切ない小説」



切ない、というよりは、寄る辺ない孤独感とか、逆に誰かといることで感じる自分という個の感覚とか、あとは、無常感。私にとっては、『人恋しい雨の夜に』読んだら余計落ち込むよ・・・と思ってしまいました。逆に言えば、浅田次郎さんはこういう感覚に安心される方なのかな、と。
浅田次郎さん風の作品が集まっているのかと思って購入したのですが、嬉しい裏切りでした。



短編で特に気に入ったのは、T.カポーティさん『ミリアム』、芥川龍之介さん『蜃気楼』、三浦哲郎さん『盆土産』。『ミリアム』を読んで、超怖い!!と思うのは私だけでしょうか?淡々とした文章なのに、ものすごい薄ら寒さを感じました。



それとは別の意味で気になったのが、小泉八雲さんの『日本人の微笑』
というのも、日本人の特徴が非常によく現されていると同時に、作者が感じた日本人と今の日本人の違いをまざまざと感じさせられたからです。



作者によると、日本人はいつも笑顔である。楽しいときはもちろん、悲しいときも、苦しいときも、笑顔を絶やさない。これを、外国から来た人間は非常に奇異に感じる。外国人が使用人を叱ると、笑う。女中が、配偶者の葬式のために暇をもらい、戻ってくると、笑顔で雇い主の外国人夫人に報告をする。そして、外国人はそれを見て、なんともいえない憤りというか、苛々を覚える。しかし、これは日本の文化に根ざしたことであり、悲しい中でもうっすらと微笑を浮かべていることこそ、日本人的な美徳なのである。
とまぁ、大筋こんなことが書かれてありました。



この文章を読んで、確かにそうだよね、と思ったのですよ。



私は、2000年の9.11テロの時、現場の見えるビルにいました。同僚の中には家族や知人を亡くされた方も多くいました。そして、その時、社内で日本人スタッフに対する不満が噴出したんです。
「日本人は、瓦解するビルを見て薄ら笑いを浮かべていた」「今回のことをヘラヘラしながら語る」。そういった内容が、副社長(日本人)の下に次々と寄せられていました。副社長に報告されるほど、大きな不満だったんです。
そこで、その副社長は「確かに、あの事故で知人を亡くした者は日本人スタッフにはほとんどいないだろう。他国のことだと、割り切っている感覚はあるだろう。しかし、我々は外国人なのだということ、常にお客さんとして、ある意味目の上のたんこぶとして見られているのだということを忘れるな」と日本人スタッフを集めて説教しました。



でも、私はこれは違うと思うのです。瓦解するビルを見ていた日本人だって、衝撃だったのです。そういう時、日本人が取る表情は、「もう、笑うしかない」だったのではないでしょうか。多分、私の表情も、米国人的"Oh, No!!"な表情ではなかったろうと思います。また「今後、どうなるんだろうね」「怖いよね」という会話をするとき、私も恐らく微笑になると思います。現に、日本人スタッフの多くはそうだった。そして、現地スタッフの猛反感を買ったのです。



さて、『日本人の微笑』を読んで数日後のこと、、、
ネットのとある掲示板で愕然としました。



飲酒運転の車に追突されて、3人の子を失ったご家族のニュースは皆様もご存知かと思います。テレビカメラの前に現れた両親は、涙も見せず、「ありがとうございました」としっかりとお話されました。



この映像について、その掲示板では「ほとんど笑ってるように見えて、違和感を覚えた」「悲しくないのだろうか?」というようなことが書かれていたのです。もちろん、「悲しくないわけない、それを必死に抑えた上でのことだ」という意見も多くありましたが。



一応お断りしておきますが、その掲示板は、某有名掲示板サイトのように何かにつけて人を中傷したり批判したりするような雰囲気の場ではありません。不特定多数の人が書き込みをしていますが、概ね皆さん良識ある書き込みをする板です。



日本人の微笑の美徳感覚は失われつつあるようです。恐らく、多くの日本人が、まだ微笑しています。でも、それを見て、自らが違和感を覚えている。ちなみに、うちの両親に聞いてみたところ、「悲しくないはずがないのに、立派な対応だった」と答えました。私も、そう思います。まだまだ美徳派、ということですね。



日本人の中でも、こんな風に感覚が分かれてしまうなんて、なんとも意思疎通の図りにくい世の中ですね。別に日本人の微笑を受け継ぐべきだ!とは思いませんが、表情の作り方・意味という結構コミュニケーションの根源的な部分で、皆が同じ価値観ではなくなっているということに、ある種の脅威を感じる次第です。



7 件のコメント:

Anonymous さんのコメント...

どんなときにも微笑、ってのは感情を殺して笑顔を作る、ってことだと思いますが、作ろうと思わなくても驚いたり、感情を抑えようとして緊張状態になって表情筋が強張れば笑顔のように(赤ちゃんの引きつり笑顔みたいなもんかな)なりますね。明確な境界はないかもしれないしかもしれませんが。
あの子供3人を失ったお父さんの会見も、ずいぶんにやついた顔になっちゃってるなとは思いましたが、私の印象は後者でした。「いつでも微笑」が美徳になったのは、その「ひきつり笑顔」が元になってるかもしれません、なんて思ってみたり。
驚いておどおどしてるところに顔がにやっとしてると不快に思われても仕方ないかもしれませんね。韓国の映像なんかで泣きじゃくる姿とか見ていると、日本だけが独特な(奇妙な?)精神性というか行動パターン(文化ってことか・・・)を持っているように感じなくもないですが、郷に入っては郷に従えなので、アメリカではやっぱり「Oh, No!」みたいな驚き方をした方が無難でいいのかも。

あき さんのコメント...

↑名前入れるの忘れました

えびすけ さんのコメント...

記事と関係ないとこにコメントいれちゃってすみませんが・・・
ぺこさん、こんにちは!
みなさんお元気そうで何よりです(^▽^)/
ブログに統一されたのですね。ブログは更新も楽ですもんねっ。
ユーノスも乗ってらっしゃるんですねっ。(^―^* )フフ♪
今は、ぺこさん実家に同居なのですねーー。
何だか、うまくいってて、楽しそうですねっ。
ほんとご無沙汰しちゃってたから、へーとかほーとかばっかりの私(笑)
ゲド戦記、イマイチだったのですねぇ。
でも、何となく言わんとすることは見ずとも分かる気がしますーー。
見に行った友達の感想もイマイチでした!
まぁ、あんまり期待しないでいつか見るとします(笑)
��中津に来られてたなんて!身近な地名がにピクリです。
ではでは、のんびり更新続けてってくださいね~~♪

vivianne さんのコメント...

お久しぶりのvivianneです。いやだわ~ぺこさんのこと忘れるはずなどないではありませんか!!
自分のことを棚に上げて、「ぺこさんどうしたのかな~」などと心配していた次第なので、こうして再会できて(再開?!)とても嬉しいです♪
さて、この作品を読んだ事はない私ですが、
��皆が同じ価値観ではなくなっているということに、ある種の脅威を感じる次第です。
には本当に共感。子育てをしているとありとあらゆる場面で、本当に、ひしひしと感じられます。
同じ事をしていても、何百年も同じ生活をしている民族と、価値観が日々変わってゆく社会に生きる民族ではストレスが格段に違うという話を聞きました。何百年と続いてきた事が正しいとは限らないけれど・・・いろいろ考えちゃいますね。
では、お互い細々とゆっくり交流を深めましょう♪

Todo23 さんのコメント...

あきさんの投稿を見て、安部公房の「他人の顔」を思い出しました。
この本は交通事故で顔を無くした男が、他人の顔をコピーしたマスクを作り、妻の前に現れて。。。というストーリーです。
そのマスクに作られた表情が一種の微笑。怒り、悲しみ、喜び(だったかな)の表情の3角形の中心にあるのが、”微笑”という解釈でした。
能面も正面から見ると微笑、うつむくと悲しみ、仰向けば喜びの顔になるようです。
つまり、微笑というのは無表情に近いと言うことで。。。。
日本人だけの特性かもしれませんが。

short さんのコメント...

うーん、わたしも、どんな顔してよいのかわからないときは
おもわず、へらーって笑い顔になるかも…。
日本人って内面を素直に表現することに慣れていないのですよね。
その瞬間に感情が押し寄せて顔に出ることもあるんだろうけど
え?
と思ったら固まっちゃうってコトが多いような気がしますねぇ。
その時、西洋の人みたいに大げさに感情を表せないと
ちゃんと悲しんでないと思われたりするのかな~。
感情表現に瞬発力がいると思うと、ちょっと辛いですね。
ま、その瞬間じゃなくてもやっぱり感情を出すのは苦手…。
DNAに組み込まれた民族としての習性かもしれないけど
若い人は違うのかな??
そう言えばすぐにキレたりしますね。って、話が違うか…^^;

ぺこ さんのコメント...

わぁ、皆様たくさんコメントありがとうございます♪
◆あきさん
話が表情筋にいくあたりサスガ^^。なるほど、緊張したときの顔ってそうなるのかもしれませんね。これは外国人もなるのかしらん?
そうそう、韓国映画、わんわん泣いてますよね。お葬式に泣き屋がいるのって韓国でしたっけ?中国だったかな??
日本は、男性は特に悲しい時こそ人前で泣くもんじゃない!みたいな風潮がありますよね。今はぽろっと涙をこぼしちゃうような男性がモテるなんていう話も聞きますが・・・おねえさん心をくすぐる、みたいな。あぁ、話ずれまくり^^;
◆えびすけさん
いらっしゃいませ~♪きてくださってありがとうございます!また今後ともよろしくお願い致しますね。
掲示板なくしちゃったので、そういうコメント大歓迎ですよ~。いつでも好きなときにどこにでも書いてくださいませ♪
ユーノス元気に走ってますよん♪えびすけさんとこのコペンちゃんも元気かしら^^。
あれ、えびすけさんは中津のお近くでしたか??このところやたらめったら大阪に頻繁に出没してます^^。今年の夏は大阪暑かったですね~。結構1週間に1日以上のペースで大阪にいたような気がするんですが、毎日溶けそうになってました^^。
◆vivianneさん
わぁい♪またおしゃべりできて本当、嬉しいです。覚えていてくださって、感涙(>_< )。
子育て、本当に毎日が発見なのでしょうね~。vivianneさんの日記見ていても、そういうのがヒシヒシと伝わってきますよ!
日々変化する社会でのストレスの話、最近、会社などで精神を病んでしまう人が多いけれど、そういうのと関係あるのかなぁ、って思いますね~。こういう細かな価値観が違っていたら、社内の人と意思疎通するのも結構大変ですものね。
◆にぃさま
「他人の顔」の話、興味深いですね~。そうか、能面がその原理というのは聞いたことがあります。能面に光を当てる方向を変えることで二つの表情に見せる、っていうのが小説にもありました。
何気なく書いた感想だったのですが、微笑っていうのは奥が深いのかもしれませんね。
◆shortさん
考えてみたら、外国人は外国人で(国にもよるんでしょうけど)瞬時に心情を表情にしてあらわす、っていう訓練を幼少からしているのかもしれませんね~。
私もそんな瞬発力、疲れます^^;。
おぉ!なるほど、すぐにキレたりするのもそういうのと関係があるのか!!感情をまずは押し殺して飲み込め、ってことを教わっていないのかも~。
日本人の微笑、思ったよりも奥がふかそう!
なにはともあれ、とりあえず「他人の顔」を読んでみたい!