(郷原信郎)
takasan828さんのブログ(若手経理社員、今日も奮闘!)で紹介されていたのを見て、なかなか刺激的な題名で気になったので読んでみました。
大まかに言えば、日本は「法令遵守」という名の下に、枝葉末節なルールを守ることばかりが優先されて、本来どうしてそういうルールがあるのか、その本質を考えた場合にどのような対応が適切なのか、ということが忘れ去られている、という主張です。
極端な例えをすれば、災害時の避難路確保のため、「非常口の前にダンボールを置かないこと!」というルールを作ったら、皆一生懸命ダンボールを置かないようにしたが、「台車を置かないこと」というルールはないから、と台車が置かれていて、結局緊急時に非難できなかった、ということですね。
そうした事例として、談合問題への対処、ライブドアや村上ファンド問題への評価、パロマのガス器具事故への対処、といったことが上げられています。
主張は分かるし、大いに賛同なのですが、なんとなく、例示がかみ合っていないような気もします。今流行り(?)の事件を持ってきて、こじつけてみた、というような。適切だったのはライブドア事件くらいかな。とは言え、談合問題の本質などの話はかなり簡潔にまとまっていて、面白いです。
この著者の主張は、最近金融市場の規制について導入が議論されている「プリンシプル・ベース」の話が念頭にあるのではないかな、と感じました。(金融以外でもそういう考え方があって、前から議論されているのかもしれませんが、そこまでは知らない^^;)
細かく規則を決めて、それに基づいて法律運営をするルールベースに対して、プリンシプル・ベースは原理原則となるものを定めます。細かなルールがない場合には、その原則(=プリンシプル)に立ち戻って判断をしましょう、ということ。英国のFSA(Financial Services Authority)がこの方式を取りはじめいます。上に出した例で言えば、ダンボールをおいた場合はもちろん、プリンシプルである「災害時の避難路確保」に基づいて、台車をおいたことも罰せられる、ということになります。法の網の目をかいくぐるような犯罪を裁きやすくなるわけですね。
私自身は、これに総論賛成なのですが、心配なのは、日本の法曹界・財界においてそのような制度が本当に機能するのか?ということです。従来、経済犯罪についてほとんど議論がなされず、実際にそれで実刑判決が下されることもなかったような日本で、プリンシプルに基づいて判決を下せる裁判官がどれだけいるのでしょう。検察や弁護士も状況は同じでしょう。ということは、企業も何を基準に行動して良いのか、その行動が法的に罰せられる行為なのかどうかが判断できず、助言できる弁護士もいないため(弁護士としてはリスクを取れないでしょう)、身動きが取れなくなる可能性もあるのではないかと。
法律の細かなところは分かりませんが、判例主義でやってきた国の方が、プリンシプルの導入基盤があるのではないかと思うのです。一方で日本は、積み重ねた法の歴史がないから、今のようながちがちのルール・ベースにせざるを得なかったというのが実態なのでは。
しかし、別にプリンシプルを導入したからと言って、既存の規制・法令等がなくなるわけではないので、害はないから、とりあえずトライしてみよう、ってのもアリなのかな?
このプリンシプル・ベースについては、今のところ、金融庁やらなにやらが、議論をしている段階で、あまり一般的な場で話題にはなっていないもよう。そして、それらの報告書や議事録を読んでも、プリンシプル・ベースの内容が極めて曖昧に語られていると感じる。FSAのプリンシプルすらちゃんと読んだことのある人が少ないのでは??と思ってしまう。ググッてみても、FSAプリンシプルの内容をきちんと書いてあるものは皆無だ。
余談だが、このコラムが気に入った。と、思ったら、私の好きな野村資本市場研究所の大崎貞和さんだった。この方の語り口がとても好きなのです。
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK319075820070620
せっかくなので、FSAのプリンシプルをここで引用しておこう。たった11項目のことなのだ。
- A firm must conduct its business with integrity.
- A firm must conduct its business with due skill, care and diligence.
- A firm must take reasonable care to organise and control its affairs responsibly and effectively, with adequate risk management systems.
- A firm must maintain adequate financial resources.
- A firm must observe proper standards of market conduct.
- A firm must pay due regard to the interests of its customers and treat them fairly.
- A firm must pay due regard to the information needs of its clients, and communicate information to them in a way which is clear, fair and not misleading.
- A firm must manage conflicts of interest fairly, both between itself and its customers and between a customer and another client.
- A firm must take reasonable care to ensure the suitability of its advice and discretionary decisions for any customer who is entitled to rely upon its judgement.
- A firm must arrange adequate protection for clients’ assets when it is responsible for them.
- A firm must deal with its regulators in an open co-operative way, and must disclose to the FSA appropriately anything relating to the firm of which the FSA would reasonably expect notice.
シンプルですよね^^。
しかし、シンプルであればこそ、コレに基づいて実際の活動を規制し、裁くというのは並大抵のことではないと思います。