テリー・ケイ (兼武 進 訳)
長年連れ添った妻に先立たれたサム。父を気遣う子供たちに感謝と少々の意地を抱きつつ一人余生を歩み始めた老人の傍らに、いつしか真っ白な犬が寄り添うようになった。どこからともなく現れた白い犬は、他の人の前には姿を見せず、ほえず、老人にしか触らせない。一日一日を大切に日記に書きとめ、妻や友人たちとの過ぎ去った日々を回想しながら、老人の静かな日々が過ぎていく。
静かに余生を送るサムと、そこに寄り添う不思議な犬。心が温かく、切なくなる物語でした。
サムは、真っ白な犬と、おんぼろのトラックと、丹精こめた苗木たちと、妻や友人の思い出に包まれて、何でもない日々が過ぎていく。ほんの少しの冒険(サム自身はそうは思っていないけれど)はあるけれど、穏やかに、静かに時が流れていきます。
一方で、そんなサムと犬を取り巻く子供たちや知人達の行動は、サムへの思いにあふれていることを十分に感じさせながらも、とてもユーモラス。周囲の人の前には姿を現さない白い犬のことを話すサムを見て、頭がおかしくなったかと心配する娘達の会話は微笑ましくて、でも、本人達は真剣に心配しているのだからそれを考えると悲しくて。
白い犬は、きっと誰のそばにも現れるのでしょう。一人残った老人のそばに寄り添う、やわらかくて、あたたかいそれは・・・。
もっと年を重ねてから、また読んでみたい本だな、と思います。まだ、毎日をあくせく過ごしている私にとっては、一里塚のような物語でした。
(新潮文庫)