2007年7月17日火曜日

『プロパガンダ教本』

(エドワード・バーネイズ著、中田安彦訳)



なんか、お勉強本月間とか言いながら、興味の赴くままに全然勉強にならないような本ばかり読んでいるような気がする^^;。まぁ、見識を広めるということで(笑)。そもそも、amazonの中古本で頼んだインフレ目標の本がなかなか届かないのがいかんのだ。大抵は一両日中くらいに発送してくれるのに、今回の出品者は1週間経っても音沙汰無し。



さて、これはすごく昔の本です。1920年代に、米国で「広報・宣伝(PR)の父」といわれるエドワード・バーネイズ氏が記した、「プロパガンダとは何ぞや」という本です。当時、ナチスドイツやソ連によって大々的に活用されたことから、プロパガンダという言葉には非常にマイナスのイメージがつきまとっていたため、民主主義社会を構成する上でプロパガンダとは必要不可欠なものであり、間違った思想を先導するためのものではない、ということを主張しています。書中には「プロパガンダをプロパガンダする」と表現されています。その上で、プロパガンダがどのように機能するかを論じており、20年代に書かれた本ではありますが、大衆の心理とか行動原理なんてそうそう変わるものでもないので、内容的には頷けます。



しかし、この本の読みどころは、私は別のところに感じました。本書は、最初と最後の章に、非常に短いのですが訳者の解説が入っているのです。
最初の章を読むと、バーネイズ氏は一部のエリートがプロパガンダで大衆を好きなように誘導することが可能とするエリート意識の塊、という簡単な紹介のされ方をしています。
その後、訳部分を読んでいくと、「どこら辺が???」と感じるわけです。非常にまっとうなプロパガンダ論を展開しており、プロパガンダで伝えられる商品や思想に関する情報は、誤ったものであってはならない、広報マンはその倫理を持たねばならないし、誤った情報は大衆には受け入れられないからそうした大衆の欲求を読み取った上で戦略を練り、広報活動をするのが広報マンの役割である、というような論調なわけです。全体を通して、それほどおおっぴらに主張されているわけではありませんが、「大衆はそれほど馬鹿ではない」というニュアンスが伺われます。
なんだかなと思いながら訳部分を読み終えると、最後の訳者解説には、もう少し詳細にバーネイズ氏の人物像が紹介されます。バーネイズ氏は、戦争宣伝において大きな役割を果たし、反共思想を広める急先鋒であったことや、害毒を隠してタバコを女性に広めるプロパガンダにおいても影の立役者だった、というような。バーネイズ氏は、そうした自らが行なったプロパガンダのうち、マイナスイメージを持たれるようなものは一切触れずに、ある意味大衆を持ち上げる形でプロパガンダの有効性を説いているわけです。この大衆の持ち上げ方が、言い過ぎるとわざとらしいので、上手い具合だな、と。



訳部分を読んでいるときは、副題にある「こんなにチョロい大衆の騙し方」という文句に違和感を持っていたのですが、訳者解説を読んで納得。なるほど、今まさに私はバーネイズ氏のプロパガンダのプロパガンダに騙されかけたわけだな、と。まぁ、この副題は単に本の宣伝文句として付けられているだけのようにも思うけど^^;。



「本書を読み終えたあと、皆さんはきっと、「ああ、またダマされた!」とはもう言わなくなるだろう。 」と帯だか序章だかに書いてあったけど、とてもそうは思えません。まずもって、この本を読んでも騙されなくなるようなことは何も書かれていません。プロパガンダとは極めて巧妙な手法であり、外堀を固めて大衆を自然とその気にさせるもので、その手法を理解していても乗せられずにいることはそう簡単なことではないでしょう。もちろん、あるある大辞典がどう考えてもまともでないことくらいは分かりますが。そもそも、あの問題で膨大な人間がその気になって納豆に飛びつく、という方が正直言って私には信じ難い^^;。訳者は、ああした番組の裏で食品業界がグルになっているなど誰も夢にも思わない、的なことを書いているけど、本当に???。でも、それが現実だから、大衆は私たちが自覚している以上にチョロいんでしょうか・・・。



具体的な商品などを売るためのメカニズムは、売りこむ対象が明確であるだけに分かりやすいし、たとえ乗せられて買ったからと言ってそう害毒があるわけでもない。流行ものを買っていい気分になれるならそれもアリかも、とも思います^^。



しかし、思想のプロパガンダはどうでしょう。商品と違って、思想には明確な「代替品」もありません。代替の選択肢に関する情報を遮断された場合、人間は結構簡単に騙されるのではないでしょうか。そして、国家や大企業などはそうした情報の遮断を結構簡単に行なえるというところが怖いところですね。



日本のマスコミは政府の意に反することを書くと記者クラブからあっという間に締め出され、情報が取れなくなるので、クリティカルに反政府的なことは書かない、とはよく言われることです。多分事実でしょう。今、マスコミで流されている国家批判も全て、国の側が「この部分は批判していいよ~」と提示しているもののように感じます。



さてさて、操作される側の大衆としてはなんとも無力ですねぇ。。。困った。



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